INTERVIEW#1 エスクデロ競飛王が栃木SCを選んだ理由「本気で変わりたいクラブの気持ちが伝わり、自分も一緒に変わりたいと思った」

栃木SCの練習で汗を流すエスクデロ競飛王(本人のSNS twitter:@chacarita151 instagram:@escudero09sergio より)。(C)TOCHIGI SC

山口慶強化部長の示すビジョンに「僕を必要としてくれている思いがすごく伝わってきて嬉しかった」。

今シーズン京都サンガF.C.から栃木SCに加入したFWエスクデロ競飛王が新型コロナウイルスによる中断期間にインタビューに応じ、「栃木を選んだ理由」「背番号9へのこだわり」「語学」をテーマに、時にユーモアを交え、時に真剣に熱く語ってくれた。アルゼンチンとスペインで活躍し浦和レッズにも在籍したアルゼンチン人の父親のもとで日本国籍を取得。自身も浦和でキャリアをスタートさせて、Kリーグ、中国超級リーグ、京都でプレーしてきた。そしてプロ15年目、31歳のセルは栃木のために全身全霊をかけて戦う覚悟だ。

――J2リーグは6月27日の再開が決まりました。新型コロナウイルスの影響で栃木県に緊急事態宣言が発出されて全体練習ができなかった間、セルはどのような1日を過ごしていたの?

「このウイルスの前では、僕たちができることはほぼなくて、その中で、栃木SCから宇都宮、栃木に住んでいる皆さんであり、サポーターやファンとの交流などを通じて『元気です』と伝え、少しでも元気になってもらえたら嬉しい。そう思って、何ができるのか、いろんなことを考えていました。

 ただ、やはりサッカー選手だから、サッカーができないことはすごく辛い。12月のシーズンオフとは気持ちもまったく違います。オフに入った直後、むしろフットサルやサッカーなど自主トレもできて、その期間は自由に楽しくできます。しかし自粛期間は家にいるしかなくて、ボールを使えてもリフティングぐらい。3歳からサッカーしかしてこなかったけれど、『サッカーをしてはいけない』というのは初めて。もどかしさしかありませんでした」

――全体練習ができない間、心掛けていたことは?

「時間を決めていました。自由に起きたり寝たりするのではなくて、ルーティンを決めて、朝の10時、午後の3時からトレーニングをして、近所に人がいない時間帯に走っていました。それを3日間続けて1日休んで、という4日のタームで取り組んでいました。空いた時間には本を読んだり、勉強もしています。規則正しい生活をできるだけ保つように心掛けています」

――もちろんサッカー界に限った話ではないものの、日程面をはじめ、先がまったく見えないことが、状況をより困難にしていたと思う。

「僕らの場合、『成果』は試合でしか示せません。チームとしても、目に見える『結果』でしか表すことができない。『結果』につながるかどうか。サッカーの面で、何をすれば正しいのかは分からない状況です。だから基本的には、しばらく自分との闘いになってくるので、メンタルを崩さないように気を付けています」

――では改めてセルが栃木SCに加入した経緯と理由を改めて教えてほしい。他クラブからも声が掛かっていたのでは?

「海外や日本の他クラブとも話はしていました。その中で今回、栃木を選んだのは、強化部長の山口さん(山口慶氏)と話をした時、栃木を本気で変えたい、そのために必要としている、と言ってくれた言葉が心に響いて、それが一番に挙げられます。プロとして15年間、いい意味でも、悪い意味でも、給与の面では恵まれた環境でプレーさせてもらってきました。ただ、お金よりも、自分を本当に必要としてくれて、本気で何かを変えたい、同時に自分も一緒に変わりたいと思えるチーム。それが栃木でした。

 必要とされ、自分が幸せを感じながらサッカーできる環境が栃木にあると思いました。山口さんは『恥ずかしいオファーではありますけれど』と言っていましたが、僕を必要としてくれている思いがすごく伝わってきて嬉しかった。もちろんプロですからお金のためにもサッカーをしていますが、それより大事なものがあると、山口さんや橋本(大輔)社長と真剣に話をするなかで感じられて、その魅力的な栃木SCに行きたいと強く思いました」

――栃木はいい補強をしたな、と思いましたよ。

「ハハハ。ありがとうございます」

――例えば集客面でも栃木は、ちょっとセルのプレーを観に行きたいなと思い、浦和から足を運びやすい立地にあります。

「関東に戻ってきたことで、『レッズの試合がない時には栃木の試合を見に行くよ』と声を掛けてくれた浦和のファンの方もいました。だから栃木に来て、『地元』に戻ってきた感じがすごくあります(笑)」

――韓国のKリーグと中国の超級リーグでプレーした日本国籍の選手は、これまでいませんでした。その経験をクラブに還元することも求められる。

「栃木では洗濯をしたりスパイクも準備したり、規模の大きなクラブではスタッフがしてくれるような作業もしなければいけません。でも、この栃木の環境は、韓国や中国だったらハイクラス。そう考えると、恵まれた環境でできていると思えます。

 新加入選手の意識は、チームに大きな影響を与えます。今回栃木に(矢野)貴章さん、シオさん(塩田)とキャリアのある選手が栃木に加わりました。実績がまだほとんどない選手と一緒になった時、新加入の選手たちが『ここに来たいからこそ来たんだ』と、選手たちに思ってもらわないといけない。どこもいけなくて仕方なく来た、ここにいるような選手ではない、というような気持ちで練習する選手がいれば、チームは悪い雰囲気になってしまいます。中国では、そういった雰囲気に移ろっていくのを見てきました。例えばヨーロッパから年俸20億円で加入した選手は『俺はお金のために来た』とあからさまに表に出してしまう。それでは中国人選手が何だか一緒にプレーしたくないなとどこかで思ってしまう。そうしてチームワークも空回りしていきました。

 今シーズンの新加入選手は、栃木に馴染もうとしています。そのうえで全体の意識を押し上げ、プロとしてハイレベルな目標を持とうと練習から意欲的です。今、栃木のチーム自体がスタッフを含め、すごくいい雰囲気でできています」

――その環境のなか、セルにとって田坂和昭監督の存在は?

「僕が中学生(浦和ジュニアユース)だった頃から知っていて、自分のいい部分を理解してくれているので、とてもやりやすいです。プラスアルファで直さないといけない部分も、しっかり指摘してくれます。選手と監督として、そして人と人として、それぞれの関係性が上手くできている。もちろんサッカーの話になれば、田坂さんが求めていること、監督が望んでいることをやりながら、自分の良さを出そうと考えます。ピッチから離れれば、いろんな話もしています。コミュニケーションの部分で、すごくいい関係性を築けています。この年齢で田坂さんが監督になってくれて良かったなと思っています」

――絶対にここから這い上がってみせる。その意識が、田坂監督とセルをはじめ、チームから強く感じられます。

「それしかないです。こうして(新型コロナウイルスの影響で)リーグが中断してしまいましたが、気持ちの面では、まったく切れていません。あらゆる人に『セルはすごいな』と思わせるぐらいのプレーを見せる。それぐらいの覚悟を持っています。そのためにトレーニングをして、食事にも気を付けていますが、すべてがいい方向へと向かっています。

 Jリーグでは3年間ノーゴールで、なかなか難しい時期が続きました。ただキャンプから高い意識で臨めて、この中断期間に入っても、(3月28日の)鹿島アントラーズとの練習試合ではゴールを決め(スコアは1-1)、チームのためになるプレーでも貢献できました。早くそういった姿をリーグ戦で見せたい。昨シーズンまでの3年間は、むしろ、こうした気持ちになれているからこそ、意味あるものだったと思えています」

※このインタビューは3回の連載です。2回目の「背番号9へのこだわり。ミスターレッズ福田正博氏への憧れ」は明日6月11日(木)朝にアップ予定です。

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[取材・文:塚越始]

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