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内田篤人が日本と欧州「差は開いている」発言で伝えたかったこと

引退記者会見に臨んだ鹿島の内田篤人。(C)KASHIMA ANTLERS

指摘した「お金の規模」は大きな課題。

 元日本代表DF内田篤人が先月行った鹿島アントラーズでの引退記者会見で、「日本と世界の差は開いていると感じる」と発言したことが注目を集めた。ドイツ・ブンデスリーガのシャルケ04でプレーした内田が、欧州UEFAチャンピオンズリーグで記録した29試合・2387分は日本人選手として最長である。

 ただ、確かに内田がシャルケ、香川真司がボルシア・ドルトムントとマンチェスター・ユナイテッド、長友佑都がインテル・ミラノとトップレベルのクラブで活躍していた頃と比較すると、欧州組自体は増えているものの、CL常連と言えるチームでプレーしているのはFCポルトの中島翔哉ぐらい。

 内田が一石を投じたのは、なぜ、そうなっているのかを考えてみないか、という問いかけでもあった。加えて、後輩たちへのエールでもあった。

「(欧州挑戦について後輩たちへ)一発でシャルケ、ドルトムントのレベルに行って活躍する選手が出てきたら面白いと思う。行くからには勉強をしにいくのではなく、勝負してほしい」

「(CLでは)今僕の出場時間が一番長いのかな。それもいずれすぐ抜かれるはずです。日本人だからと、そういう特別な目で見てもらえますが、ドイツ、スペイン、フランス、差は縮まっていない気がします」

「もうサッカー選手を終えたので、好きなことを言ってもいいかな。(差について)正直、広がったなと思っています」

 莫大な放映権料をもとに世界最高峰のリーグとして君臨するイングランド・プレミアリーグを中心に、その恩恵をドイツ、スペイン、フランス、少し遅れてイタリアなど周辺国も受けてきた。トップ・オブ・トップの選手がそこに集中するシステムが出来上がり、日本人選手がそこになかなか食い込めなくなってきている。

 プレミア勢の札束攻勢に手を焼くレアル・マドリードやFCバルセロナは若手路線に切り替え、久保建英、安部裕葵らを獲得。そのようにして新たな時代のうねりもできてきている。

 そこでどのような「差」を感じるのか。内田は次のように問いかけていた。

「戦術的なのか、お金の規模なのか、分かりません。僕も海外から離れてもう長いのでレベルは分かりませんが、映像で見る限りは。あと海外に多くの選手が出ていますが、おお、と思えるチームでプレーしている選手がそう多くないかなと思います」

 リーグの資金力の差は確かに大きい。

 放映権料とセットで、欧州主要リーグは民間のスポーツベッティング会社がスポンサーにつくケースが増加。そこに中国、中東の後押しも加わる。さらに巨額の資金が生まれるシステムができつつある。

 DAZNとの12年間の長期契約を結んだJリーグだが、欧州と争える領域に踏み込むことはできるのか。しかも中東、メジャーリーグサッカー、そして中国超級リーグも、オーナーの資金力を生かし、Jリーグの前に立ちはだかる存在に。

 そうした世界中のリーグと競うには、内田の言う「お金の規模」は、実は大きな課題でもある。あるいは、日本はそういった争いに加わらない、目指さない、という選択肢もある。

 加えて、欧州も日本も、この「娯楽」であるサッカーへの新型コロナウイルスの影響が、どのように出てくるのか。正直まだ誰も分からずにいる。

 ちなみに、Jリーグと欧州サッカーについて内田は、レベルではなく「違い」があるという言い方をしていた。そこはまた少し別の話だと言えた。

「DAZNでCL決勝とJリーグの試合をパパっと見られるようになり、ただ、まるで違う競技だなと思うくらい、僕のなかでは違いがある。こんなことを言ったら、怒られるかな」

「サッカー選手ではない一般人として、ちょっとかじったことがある人間として喋ると、Jリーグと海外サッカーがどうこうというつもりはありません。ただ二つの試合を見た時に違いがあると思います。Jリーグのレベルが低いとは全然言っていません。JリーグにはJリーグのスタイルがあり、ヨーロッパにはヨーロッパのスタイルがあるというだけだと思います」

 Jリーグも前進している。しかし、プレミアリーグを中心とした欧州の主要リーグはもっと早い速度で先を進んでいるのではないか。内田の指摘は、新たな風を取り込む一方、まだまだドメスティックな要素が多分に支配する日本サッカー界への最後の警鐘のようでもあった。

注目記事:【鹿島】内田篤人が言った「シャルケへ一発で行く選手が出てほしい」の真意

[文:サカノワ編集グループ]