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【カメラマンの視点】リカルド監督が徳島で築いた「真の強さ」、きっと浦和でも

徳島のリカルド・ロドリゲス監督。新シーズンは浦和の指揮官に就任する。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

宮崎合宿で見せていた徹底、試合で感じた重要だった日本人コーチの存在、そして4年で一つの完成形につなげた理論と情熱――。

 シーズン開幕前の1月下旬、宮崎で合宿を行う徳島ヴォルティスを取材する機会があった。選手たちがこなす練習メニューのなかでひと際、目を引いたのはJ2クラブにあって屈指と評価されるチーム戦術への取り組みだった。

 最終ラインでボールを回し、サイドハーフにボールを渡す。ボールを受けた選手はライン際を素早く攻め上がりゴール中央へセンタリング。走り込んだ選手がコンタクトしシュートを放つ。リカルド・ロドリゲス監督の熱のこもった指導を受けて、選手たちはこの決められた動きをスピーディに、そしてミスをしないように細心の注意を払いながら何度も繰り返していた。

 チームを構成する選手たち全員が勝利への方法を共有し、それを実行するための練習を一途に行う。彼らの練習風景から、サッカーというスポーツは決められた知的行動の繰り返しで作られていることを改めて思い知らされた。

 迎えたJ2リーグ戦、リカルド・ロドリゲス監督のもと徳島は洗練されたチーム戦術を武器に、コロナ禍で変則的な日程を強いられたリーグ戦において着実に勝ち点を積み上げていく。

 そのなかで徳島の強さが本物であることを確信した試合がある。7月19日の対アビスパ福岡戦だ。

 結果的に徳島はこのホームゲームを0-1のスコアで落とすことになる。では、敗れたチームにあってどこに強さを感じたのか。

 徳島は90分間を通して、最終ラインでボールを繋ぎながら相手の守備体系を揺さぶっては崩し、突破口を作るとそこから果敢に攻撃を仕掛けるスタイルでゴールを目指し続けた。リードを許しても、慌てず信じるスタイルを貫く。明確な方向性を持ち、選手たちがピッチで見せたプレーからゴールへの意図が伝わってくるサッカーに、真の強さを感じたのだった。

 徳島は長丁場の42試合を戦い抜き見事に優勝を果たし、J1昇格を成し遂げることになる。リカルド・ロドリゲス監督就任4年目で大きな目標を達成した。

 リカルド・ロドリゲス監督のサッカーが成就するまでの4年間は、決して平坦なものではなかったようだ。就任当初は彼が目指す理想の戦術を選手たちが消化しきれず、チームの成長は滞ることになる。

 監督の立場を考えれば、ハイレベルなサッカーを展開してゲームを支配し、勝利の確率をより高めたいと思うのが心情だろう。しかし、理想だけを追求しても勝利に直結しないのがサッカーだ。

 戦術の追求はチーム不振へと転化させる危険をはらむ。選手たちが課されたサッカーをピッチで上手く表現できなければ、勝利への原動力とは成り得ないからだ。

 ここで力となったのが日本人コーチ陣だった。彼らは監督と選手たちの繋ぎ役として理解を深めることに努力する。

 リカルド・ロドリゲス監督は選手たちの能力を分析し直し、徳島で表現できる最高のレベルのサッカーを模索する。選手たちも全面的に指揮官を信頼し、彼が示したサッカーの体現に全力を尽くした。こうして徳島は4年間の歳月を経てチームとしての一つの完成を見たのだった。

 J2優勝によって第100回天皇杯への出場権を手にした徳島は準決勝で、強豪ガンバ大阪と対戦した。この試合、前半は両チームとも相手の手の内を探るような静かな展開で進んだ。だが、後半に入りホームチームがゴールを奪うとゲームは一気に動き出す。

 勝利のためにはもはや攻めるしかない状況に追い込まれた徳島はここから奮起する。リードを奪ったG大阪がやや守備的になったこともあったが、徳島は両サイドを起点に持ち前のスピーディなサッカーを展開しゴールへと迫った。

 しかし、最後までG大阪の牙城を崩せず、試合終盤にさらに失点し、決勝への道は途絶えた。それでも後半に見せたG大阪ゴールへと迫るプレーは、徳島がJ1リーグでも十分に戦えることを証明する充実したプレー内容だったと言えるだろう。

 来シーズン、徳島は新たな監督を迎えてJ1の舞台に臨む。4年間積み上げてきたスタイルに新風を加え日本サッカー最高のリーグで戦う。

 そしてリカルド・ロドリゲス監督はJ1の浦和レッズへと活躍の舞台を移す。彼ならきっと浦和でも選手たちの能力を最大限に引き出すスタイルをチームに浸透させ、強豪へと返り咲かせることができるだろう。その手腕に期待が膨らむ。

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[文・写真:徳原隆元]

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