【浦和】不服申し立ては今日が期限、JFA規律委員会の決定に問題点や課題も。サポーター暴徒化、天皇杯参加資格剥奪
浦和レッズのサポーター。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI
「条項の拡大解釈」の可能性。
日本サッカー協会(JFA)規律委員会が9月19日、天皇杯・名古屋グランパス戦でのサポーター暴徒化問題を受けて、浦和レッズに対して2024年度の天皇杯参加資格を剥奪するという過去にない重い懲罰を下した。その不服申し立ての期限が今日25日となっている。
不服申し立ての期限は決定日を含め7日間。また不服を申し立てたあと1週間後までが、理由を提出する期限と指定されている。
浦和サポーターの暴徒化騒動はもちろん論外である。一方、この規律委員会の決定は、いくつかの問題点と課題を残した。
ある意味、こうした重罰が「解釈の仕方」によって決定しかねない状況になりつつあると危惧される。浦和はこうした点を整理し不服を申し立てるべきではないだろうか。
規律委員会は今回の浦和への懲罰決定の「根拠の条項」として、『懲罰規程 第4条第2項(2)及び(15)、第27条』また『天皇杯試合運営要項 第30条』と明記している。
まず「天皇杯試合運営要項」だが、JFA公式サイトでは確認できずにいる。JFA広報部に、全文の確認方法について確認中である。そのため、まだ、この要項全体を把握できずにいる。
JFA規律委員会の発表によると、第30条1項は「参加チームは、自チームのサポーターに対して、試合の前後及び試合中において秩序ある適切な態度を保持するよう努める義務を負う」、2項は「参加チームは、前項の義務の遂行を妨げる観客等に対して、主管協会と協議の上、その入場を制限し、または即刻退去させる等、適切な措置を講じなければならない」。
クラブの責任を問う内容とは言え、サポーターの行動・行為に関する記述がありながら公開されていない点は、まず瑕疵に挙げられる。
私たちが確認できる天皇杯を含むJFA主催試合の全てに共通する「試合運営管理規定」では、観客の「禁止行為」が詳細にわたって記載されている。今回の浦和サポーターの行為も、ここでの違反行為に該当する。
ただ、規律委員会の浦和への決定の「根拠条項」に、この「試合運営管理規定」が含まれていないのも疑問点である。ここではそうした観客について、入場禁止処分にできると記されている。
第4条禁止行為 12項
「12. アルコール、薬物その他物質の影響により酩酊した状態で施設に入場する行為、又は施設においてこれらの影響により酩酊し、他人を脅迫、威圧、挑発する等著しく他人の行為等を阻害し、迷惑となり、又は他人の嫌悪の情を催させる物品を持ち込み、又は行為すること。(酩酊とは:アルコール等の影響により、正常な行為ができないおそれのある状態をいう)」
3. 運営・安全責任者は、第1項に該当する者の中で特に悪質と認める者に対しては、その後開催されるJFA主催試合についての入場を拒否することができる(以下、省略)。
また「人種差別」などの行為を行った場合には、クラブの参加資格剥奪もあり得ると記される。ただし、今回のような「暴力」については、当事者の入場禁止のみが規定され、クラブへの処分に関して規定されていない。
そして規律委員会が来年の天皇杯参加を剥奪したのは、「懲罰規程」に則ってのものだという。
この「懲罰規程」は基本的に、選手・スタッフ・役員・仲介人という現場に関わる人たちに向けた内容となっている。選手や仲介人の違反行為……賭博、詐欺などを未然に防ぐため、詳細にわたって記されている。
今回の「天皇杯の参加資格剥奪」の根拠となった「懲罰規定 第27条 」は次のような内容だ。
「〔競技及び競技会に関する懲罰基準〕 競技及び競技会に関する違反行為に対する懲罰は、別紙1『競技及び競技会に関する懲罰基準』に従って科されるものとする」
つまり上記の「試合運営管理規定」そして一般非公開となっている「天皇杯試合運営要項」によるというのだ。
「懲罰規程」には、サポーターの違反行為に関する規定が明確には規定されていない。今回の決定のように、「クラブの責任」のみ言及されている。
そのため、今回のように、ある意味、規律委員会が都合よく様々な「規定」から解釈して、処罰を決定している。そのように受け取ることができてしまうのだ。
こうしたルール・規律は本来、明文化されていることが全てだ。「曲解」できてしまうとなれば、今回のみならず、処罰のエスカレート化がただ進むだけである。
それは浦和のみならず、全てのクラブにとっても脅威になりかねない。あるクラブの代表者はまるで他人事のようにSNSで浦和を非難していた。ただ、それぞれのクラブが明日にも当事者になり得るテーマでもあると言える。
Jリーグ前チェアマンが2014年、浦和サポーターの張った横断幕が人種差別にあたるとして、それまでの累犯もあり「無観客試合」の処罰を決定した。
Jリーグ規約の懲罰規定では「けん責 → 罰金 → 中立地での試合の開催 → 一部観客席の閉鎖 → 無観客試合の開催 → 試合の没収 → 勝点減 → 出場権剥奪 → 下位リーグへの降格 → 除名」と10段階と記される。そこで「罰金」から三段階飛ばしでの「無観客試合」になり、その決定以降、浦和に対し、似たような違反をした場合には、さらに重い懲罰を与えると警告が発されてきた。まるで常に首にナイフを突きつけられたような状況が続いてきた。
ここでドイツの例を挙げたい。
今回のような連盟・協会主催のカップ戦ではなくブンデスリーガではあるが、2017年、当時・香川真司(セレッソ大阪)の所属していたボルシア・ドルトムントのサポーターがRBライプツィヒ戦で暴徒化。相手サポーターに負傷者も出た。
DFB(ドイツサッカー連盟)はそれまで「執行猶予」になっていた問題行動を含めて懲罰を勘案。そして「リーグ戦1試合、ゴール裏を閉鎖する」という処分を決めた。ドルトムント名物2万5000人を収容できる「黄色い壁」への入場を禁止するという処分だった。
ドルトムントは当初、不服申し立て期限までに対応を決めると発表。すでに逮捕者が出るなどしていたなか、クラブも「加害者に対する措置と制裁を準備している」としていた。
そして一部のサポーターのためにゴール裏の2万5000人のサポーター全員が被害をこうむる状況になるが、「感情的になりがちな雰囲気のなか、法的にこの罰則が『適切』、『必要』、『妥当性』なのか実質的に議論するのは、現時点では不可能であり、賢明ではないと判断しました」として、処分を受け入れると発表した。
サッカー大国でも「無観客試合」「大会参加剥奪」のような、クラブへの直接的な重罰はそう簡単には下されない。このようにサポーターに対し直接制裁を下して、本人たちに問うのだ。
関連記事>>【浦和】ACL明本考浩『途中出場→即交代』、スコルジャ監督が明かした理由とは…。G大阪戦は欠場
「天皇杯試合運営要項」にも、Jリーグのように観客に対する段階ごとのペナルティが記されている可能性はある。記載がなければ「試合運営管理規定」とともに、サポーターに関する処分をより明確にするべきだ。つまりドイツの例のように、「ゴール裏閉鎖」と「期間」、そうした段階を経ての「無観客試合」など、より詳細に規定したい。「勝点剥奪」「参加資格剥奪」「自動降格」などクラブへの責任でなく、問題を起こした場合のサポーターに対する規定を明確にしたい(Jリーグの懲罰規定も同様だ)。
「独立した機関」とされる懲罰委員会だが、その内部はブラックボックスに包まれていて(もちろんそれが妥当で、ある意味仕方ないのは理解できるのだが)、チェアマンや会長のメディアを通じた何かしらの一言によって、その懲罰の重さが変わってきてしまうのではないか、という印象も与えている。不服と申し立てる、あるいは、事実を確認する。少しでも疑問があれば、そういったアクションを起こすことは、むしろ重要である。
「天皇杯参加資格剥奪」は果たして妥当なのか。浦和は不服委員会、さらには日本の法廷(浦和が前回別件で申請そのものを却下されているCAS[国際スポーツ仲裁裁判所]に訴えたい場合、同類の事例が過去にあるのかなど確認したほうがいいだろう)に問うのも手段の一つではないだろうか。
繰り返しになるが、浦和サポーターのあの行為は許されない。クラブのその後のサポーターグループ・個人に対する、むしろ彼らを守ろうとするような及び腰の対応も実に気になるところだ。
しかし、それとはまた別に、このJFA懲罰委員会による「条項の拡大解釈」の可能性について浦和が問うことは、日本で最も多くの観客数を誇るクラブにとっての責任と言えるかもしれない。