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スタジアムの熱を取り戻すための試行錯誤。正解はないが…ドイツは「声援」、Jリーグは「お酒」を優先して

次なるテーマは、スタジアムの「熱」をどのように取り戻すのか?写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI

そろそろJリーグでも「声」を認めては? プロ野球では「プレーの度の拍手・通常の声援」「応援団の太鼓リードによる声援・拍手」が認められる。

 Jリーグは10月30日から、スタジアムでのアルコール販売を認める。あくまでも販売するかどうかの判断は、各クラブ・各スタジアムに委ねられる。スタジアムでの楽しみの選択肢が一つ増える形だ。

 一方、「発声」による応援はいまだ「禁止事項」に入っている。むしろ、アルコールよりもそちらが優先されるべきではないか……という意見もSNSなどで散見される。Jリーグ内でも様々な議論をしてきたなかでの次のステップであり、今後も感染状況によって、少しずつ緩和されていくということだ。

 そうしたなか、ドイツ・ブンデスリーガは9月のリーグ開幕から一足早く「声」を出しての応援を認めていた。

 が、国内の新型コロナウイルス感染者の増加により、ドイツ政府は10月28日、11月から無観客でのみブンデスリーガを含むプロスポーツの試合開催を認めると発表した。ブンデスリーガはスタジアムでの感染事例はないと異議を唱えているが、アンゲラ・メルケル首相はここで一旦、昨年のロックアウト以来となる規模で、国民の行動を引き締める考えだ。

 スペインやイギリス(イングランド)では昨季終盤から無観客試合での開催が続いていた一方、ドイツではリーグがステップを設定(まず会場の20パーセントまで入場可)。そのうえで各州ごとに観客動員を認めるか認めないか、あるいはその規模について決定していた。

 大迫勇也(ヴェルダー・ブレーメン)のいるブレーメン州は2節以降(1節ヘルタ・ベルリン戦のみ8400人動員)、バイエルン・ミュンヘンのあるバイエルン州は開幕から無観客での開催を続けていた。一方、RBライプツィヒのあるザクセン州は、開幕から2試合は8500人、直近は999人に減らして来場を認めていた。そしてクラブ公式サイトには観戦のためのマナー・ルールが細かく明記されていた。いくつか挙げてみたい。

 日本と似ている点も多く、当面はホーム(地元)の入場しか認めない。マスクの着用は義務(7歳以下は免除)。最近14日間、発熱や体調不良がないことが条件。そしてランダム式に指定された座席以外での応援は認めない。グループを作っての応援をさせないためだ。

 また、最近7日間に多くの感染者が発生した地域からの入場も認めない(クラブが住所から特定する)。さらに、あの手この手でチケットを手にする人も想定されるため、入場時に抜き打ちでIDチェックを行う。

 100ミリリットルまでの消毒液の持ち込みはOK。そしてスタジアム内の飲み物は、ノンアルコールに限り可能だった。

 その代わり、声を出しての応援は禁止されていない。そのため「UEFA.tv」などで配信されているドイツの試合では(オーストリア、スイスも)、観客の歌声や歓声、そしてため息が聞こえてきていた。

 遠藤渓太のいるウニオン・ベルリンのあるベルリン州も動員が認められ、ファンクラブの中から毎試合選ばれる約5000人のファンが、マスク着用も義務化されず声援を送っていた。イギリスの『デイリーメール』では、ウニオンサポーターの「私たちはスタジアムにいて声援を送れるだけで幸せだ。たとえビールを飲めなくても」というコメントを紹介していた。試合日のパブの営業も、この開幕から認められるようになったということだ。

 しかし、その夢を取り戻しつつあった時期は約2か月で、再び「ゴーストゲーム(ドイツでの「無観客試合」の呼び名)」に逆戻りすることになった。

 一方、Jリーグでは10月30日から会場でのアルコール販売が認められた。

 10月20日のJリーグ実行委員会後にオンラインによる記者会見が行われ、そこでスタジアムでのアルコール販売解禁が発表された(ちょうどアルビレックス新潟とベガルタ仙台の選手の“不祥事”が起きた直後のため、そちらに話題も集中した)。

 なかなかJリーグのスタジアムに観客が戻ってこない現状――。あらゆるテーマは、大切にしてきたはずのサッカー「熱」の物足りなさに辿り着くのではないか。

 なかなかスタジアムに熱が戻らないが? というテーマについての質問も出た。

 そこで木村正明専務理事は次のように語った。

「一言でいえば、安全・安心を徹底しながら、楽しい空間を取り戻していくことになります。その両立が大事で、どちらかが欠けてもいけません。それを訴求していきたい。安全・安心は全クラブが涙ぐましいぐらい取り組んでくれていて、ファンの皆さんに協力していただいているなか、それを伝えきれていないのは、リーグの努力が必要だと思います。『Jリーグの試合に行く』と言って、『え……』と(後ろめたく)思われないように、安全・安心だと思えるようにしていきたいです。徐々に世の中の状況も変わってくるなか、対応していきたいと思っています」

 その流れで、村井満チェアマンに質問を投げかけた。

「試合をなんとかして開催・成立させる段階から、どのように観客に安全に試合を楽しんでもらうか。その過渡期にあり、各クラブが試行錯誤している。ただ政府方針も影響しているとはいえ、Jリーグは観戦ルールで『禁止』が多い印象もあり、敬遠されているきらいもある。ドイツのアルコールよりも声を出す応援を認めている点も、Jリーグにとって参考にならないだろうか」

 Jリーグが再開時、プロトコル作成の参考にしたのがドイツのブンデスリーガだった。「健康な人たちが集まっている」という前提に立てば、声を送ることは認めてもいいのではないか。

 村井チェアマンは、まず「通常に戻していくプロセスを今歩んでいるところです」と語ったあと、応援ルールの緩和についての考えを示した。

「同時に私たちは専門家会議の意見など傾聴しながら検討しているところです。何も政府や当局の方針だけに従っているわけではなく、我々から提言して要請を重ねていることもあります。まず前提は、最終的には一定程度は声を出せる、通常のスタジアムにしていくためのステップを歩んでいる、という認識です」

 そして運営担当者が観客からのリアルな反応を受けて、緩和についても検討していると語った。

「どのタイミングで緩和していくのか。今回もガイドラインが改訂されていますが、クラブの運営担当の声を聞きながら、彼らはダイレクトにお客様と接しています。(来場が)リスクになればお客様には遠慮され、(ルールが)行き過ぎれば窮屈なスタジアムになります。お客様の声を把握しているのがクラブのスタッフでもあります。緊密に連携を取り、頻繁にアンケートを取りながら、今後進めていきたいと思います(毎試合、Jリーグは各クラブからガイドラインに対する要望など含めたアンケートを回収している)」

 そのうえで村井チェアマンは「ドイツと日本をダイレクトに比較しながらというよりは、日本のお客様の心情を丁寧にキャッチアップしながら、判断していくことになるのではないかと思います」と語った。

 Jリーグはまずスタジアムのフル(に近い)開放を目指している。そこに向けて、さまざまな制約が設定され、観客も「我慢」を強いられながら、少しずつ緩和されているという流れだ。

 ただ、実は日本のプロ野球でも「プレーの度の拍手・通常の声援」「応援団の太鼓リードによる声援・拍手」は認められている。

 サッカーの場合、どうしても声が大きく、飛沫が飛びやすくなることへの懸念がある。ただ、もしかすると慎重になりすぎているのかもしれない。

 徹底して我慢しながら観戦する。その行為にそろそろ限界が来ているようにも感じる。その拍手しか響かないスタジアムに、むしろ選手もどこか緊張してストレスを抱えながらプレーしている印象も受ける。あるいはスタジアムのストレスがピッチに伝播してしまっているとも言い換えられる。

 とはいえ欧州の状況を見れば、観戦できるだけでも良いのではないか、という声も再び増えるだろう。

 試行錯誤は続く。そして正解も存在しない。ベストは誰も分からず、ベターを探ることになる。

 11月7日のルヴァンカップ決勝・柏レイソル対FC東京はフジテレビ系列で中継される。Jリーグの2020年が辿ってきた道の一つの経過を示す意味でも、何かしらの「声援」を認めてもいいのではないだろうか。いやいや、ここでこそ、しっかり引き締めるべきだろうか。

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[取材・文:塚越始]