【女性初ミラ監督インタビュー#3】共鳴した鈴鹿の挑戦、指導者としての夢は?
通訳兼アシスタントコーチの小澤哲也氏(左)とミラ監督。写真:新垣博之/(C)Hiroyuki SHINGAKI
道を切り拓き、スペイン国外で監督をしたかった。
【インタビュー】ミラグロス・マルティネス(鈴鹿アンリミテッドFC監督)
JFL(日本フットボールリーグ)の鈴鹿アンリテッドFCのミラグロス・マルティネス・ドミンゲス監督は、JリーグとJFLで史上初めて女性として監督を務める。クラブとしても初のJFLを戦う今季、彼女はチームとともに試行錯誤を繰り返しながら、持ち前の明るさと”本場”スペインでの指導者としての経験を生かして、日々勝利を追求している。
ちょうど来日から半年が経つ。彼女に日本でのスペイン流のチーム作り、女性とサッカーなどをキーワードに話を聞き、自身の夢にも触れてもらった。3回連載の最終回。
(取材・写真・新垣博之 取材日:2019年6月1日/文中の情報は取材時/編集・サカノワ編集グループ)
【女性初ミラ監督インタビュー#2】鈴鹿で挑むスペイン流+日本人の特徴を生かした攻撃的サッカー
――話は変わりますが、いよいよフランス女子ワールドカップ(W杯)が開幕しました。ミラ監督はスペインの女子リーグでの指導経験が豊富です。今回のスペイン女子代表チームに教え子や対戦相手で気になる選手も多いのでは?
「正直、全員知っています(笑)。直接チームで指導していた選手はいないのですが、私が監督をしている時に対戦したことのある選手ばかりです。一緒にご飯を食べに行った選手も多く招集されていますよ」
――女子W杯を楽しむためにも、ミラ監督が注目して欲しいスペイン女子代表の中心選手についてのリアルな解説をお願いします。
「OK! たくさんいますよ(笑) まず、GKはバルセロナに所属するサンドラ・パニョス選手が先発でしょう! DFではパリSGに所属しているイレネ・パレデス選手。おそらく現在の女子サッカー界で世界ナンバーワンを争うCBです。
そして、中盤が最も良い選手が揃っています。中でもビクトリア・ロサダ選手は“違い”を作れる選手で、彼女はスペイン女子史上初めてW杯でゴールを挙げた選手です。
エースFWは10番のへニフェル・エルモソ選手。パリSGやアトレティコ・マドリーでプレーしてきた強烈なストライカーです。9番のマリオナ・カルデンティは凄くテクニックのあるウイングで、ルシアとナイカリという二人のガルシア選手はとにかく足の速いアタッカーです。ポリバレント(多様性)に富んだ良いチーム編成ですね」
――今回のスペイン女子代表の平均年齢は24.6歳。日本はスペインより若く、大会出場全24カ国中の2番目に若い24.0歳。昨年夏のU20女子W杯決勝の対戦カードが日本とスペインでしたね!(結果は日本が初優勝)
「日本もスペインも下の世代で実績を上げた選手とともに、年代別代表で実績を残した監督が女子フル代表を指揮しています。若いチームなので躍進を楽しみにしていますし、今後の積み上げも期待できるので楽しみにしています。スペインの場合は女子リーグ自体が選手の登録数や給与などの条件をもっと良くして、もうワンランク上に行こうという動きがあります。代表チームの強化も加速していると感じます。3月に開催されたスペイン女子リーグの首位攻防戦(アトレティコ・マドリーVSバルセロナ@ワンダ・メトロポリターノ)で6万739人の観客を集めましたが、今回の代表チームはバルセロナ(10人)とアトレティコ(5人)所属選手が多くを占めています」
――スペイン女子代表に関しては、W杯に初出場した前回大会終了後、選手たちが監督からのセクハラやパワハラを訴えるといった社会問題に発展し、27年間指揮を執ったイグナシオ・ケレダ監督が退任しました。
「私も報道を通して知っていますが、当事者ではないため何ともいえません。ただ、後任となったホルヘ・ビルダ現監督は年代別の代表チームを指導していたので、教え子である若い世代の選手たちをフル代表に積極的に招集し、良いチームを作っています。昨年はU-20女子W杯は日本に次ぐ準優勝、U-17女子W杯は優勝しています。スペインの女子サッカーは確実に良い方向に向かっています」
――ただ、スペインサッカー界に“マチスモ”(男性優位主義)はあるのでしょうか?
「あると思います。現在の私のように、スペイン国内で女性監督が男子チームを率いるには難しい状況です。だからこそ、同じサッカー指導者として女性監督が男性監督に負けない能力を持っていることを証明し、世界へ向けて発信していく必要があると感じています」
――それが今こうして遠い日本まで来て鈴鹿アンリミテッドFCというチームを率いている理由になるのでしょうか?
「ここへ来た理由の一つには、海外で監督をしたかったという想いがありました。ただ、やはり実際にここに来て仕事をする中で、自分の活躍を全ての女性の皆さんに見てもらいたい、励みになりたい。自分がそういう道を切り拓きたいと思い、それが今の私のモチベーションになっています。そして、今、実際に私は『見られている』というプレッシャーがあるので、しっかりと結果で証明したいと思います」
――UEFAプロライセンス(日本のS級相当)を保有されていますので、Jリーグや各国代表チームの指揮も可能です。今後はどのようなキャリアを歩まれたいと考えていらっしゃいますか?
「今現在はこのチームで大変満足していますし、勝ち取れるだけのモノを手にしたい、クラブが掲げるプロジェクトを成し遂げたいと考えています。もちろん、夢としては、どこかの国の代表チームを率いてみたい気持ちはあります。そして何より、この<プロサッカー監督>という職業でずっと生きていきたいと強く願っています」
――日本で長くキャリアを続けてもらえませんか(笑)
「安心してください。今、私はここにいます(笑)。それに日本語もしっかり勉強中です」
――アーセナルで22年指揮を執った名将アーセン・ヴェンゲル氏は6か国語を話せるのですが、名古屋グランパスで2シーズンの指揮を執り、「日本語は難しい」と習得できませんでした(笑)。
「ニホンゴムズカシイデス(笑)」
――それでは最後にアンリミテッドさんのサポーターをはじめ、日本のサッカーファンに向けてのメッセージをお願いします。
「私はいつもこういった質問の際に送るメッセージがあります。日本のサッカーファン・サポーターの皆さんは素晴らしいです! 選手へのリスペクトや相手チームへの労い、ファン同士の交流、会場の後片付け、監督へのリスペクトもそうですね。日本のスタジアムにはヨーロッパでは考えられないくらいのリスペクトが溢れています。これは世界ナンバーワンだと誇って良いことだと思います。皆さんが日々注いでいるサッカーへの愛情、情熱は日本サッカーのチカラになっています。今後もそれを続けてください」
ミラグロス・マルティネス・ドミンゲス(鈴鹿アンリテッドFC監督/JFL)
1985年4月23日生まれ(34歳)
現役時代はDFとして主にスペイン女子2部でプレー。2007年から指導者に転じ、アルバセテ・バロンピエの女子チームや下部組織で監督やコーチ、スタッフを歴任。2018年夏からスペイン女子アトレティコ・トメロッソを率いていたが、海外クラブからのオファーがあり、契約解除。2019年1月、鈴鹿アンリミテッドの監督に就任。JリーグとJFLで史上初の女性監督となった。UEFAプロライセンスを保有。
※鈴鹿のチケットはチームのオンライン会員になってWEBチケットを購入すると、前売りで大人1800円の紙チケットが同1000円に。入場時にQRコードを提示するペーパーレス観戦がお薦めです!詳しくはクラブ公式HPをご覧ください→【鈴鹿アンリミテッド公式HP】 https://suzuka-un.co.jp/
【女性初ミラ監督インタビュー#1】規模は似ている鈴鹿とアルバセテ。「数万人がサッカーを楽しむ」中からイニエスタは生まれた
取材・文:新垣博之
text by Hiroyuki SHINGAKI