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【カメラマンの視点】南米らしい荒っぽさに怯まなかった勇気の勝利。U-24日本代表、アルゼンチン戦から見えた東京五輪メダル獲得への道筋

中盤でアルゼンチンの攻撃の芽を摘んだ田中(右)。板倉とのボランチコンビが機能し、南米の強豪の攻撃を無失点で乗り切った。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

先制されたアルゼンチンが失った俯瞰する力。一方、日本は田中碧が中盤で抜け目なく光彩を放ち続ける。

 北九州スタジアムの淡いナイター照明の光に浮かび上がったU-24日本代表は、実にタフなチームだった。4か月後に迫った自国開催のオリンピックでメダル獲得を目指すチームは、強化のためU-24アルゼンチン代表と2連戦を行った。

 中2日で迎えた第2戦、日本は東京で0-1と敗れた南米五輪予選1位の強豪に対して3-0のスコアで快勝。見事にリベンジを果たしたのだった。

 試合は開始からアルゼンチンが高い基本技術と、南米らしい荒っぽいフィジカルプレーの2枚刃で日本の守備ラインを切り裂こうと試みる。ショートパスで繋いでチャンスを伺い、ここぞの時に一気に前線へと繰り出す、重心の低いインサイドキックから放たれる力強いグラウンダーのパスは、南米選手特有の技術が集約されたプレーであり、日本攻略の突破口として威力を発揮していた。

 対するホームで連敗は許されない日本も、真正面からこの突き付けられた挑戦状に立ち向かう。その結果、ピッチではタフな駆け引きが繰り返されることになる。

 1対1での勝負、ルーズボールの競り合いで激しいぶつかり合いが展開されていった。前半はこうしたフィジカルコンタクトによる、つばぜり合いが随所で見られ、ともに主導権を握ることができないまま時間は経過していった。

 結果的に日本の勝利のカギとなったのは、この球際での対決や接触プレーにまったく怯まなかったことだ。高い集中力と勇気を持って激しいプレーで対抗し、南米の強豪相手に互角以上の展開を見せたのだった。

 どちらもゲームのペースを握れない状況が続いていた前半だったが、終了間際にスコアは動いた。堂安律の負傷による辞退で追加招集された林大地が先発の期待に応えてゴール。日本が待望の先制点を挙げる。

 ハーフタイムを挟み、アルゼンチンは劣勢を挽回しようとギアを上げてきたが、日本はクールに燃えて激しい局地戦に勝利していく。強豪国として知れ渡るアルゼンチンのブランドに気後れすることなく、果敢にプレーする日本の選手たちは実に逞しかった。

 アルゼンチンの敗因は先制を許して迎えた後半の戦い方にあったと言える。第2戦の展開は、第1戦と同じく激しいボールの奪い合いが試合の核であったことは変わらない。だが先の東京でアルゼンチンは試合がハイプレス合戦の模様を呈すると、その勝負を避け、ロングボールを多用して得点を狙う戦術に切り替えた。ディフェンスラインもゴール前を固めるように自陣へと下がっていった。

 この戦い方が見事に嵌った。後方からのロングボールにコンタクトしたМ・バルガスが日本陣内深くまで侵入しクロス。これをゴール前で待ち構えていた長身FWのA・ガイチがヘッドで決め勝利をもぎ取ったのだった。

 しかし、第2戦のアルゼンチンは勝利した第1戦での戦い方を再び行うことはなかった。その理由は先制されたことで、勝負を俯瞰で見る冷静さを欠いたからではないだろうか。アルゼンチンは日本の守備網を打破するための原動力に、持ち前のテクニックだけを全面に出した、個人のドリブル突破に求めてしまったのだ。

 久保建英からのCKから板倉滉に渾身のヘッドで2ゴールを奪われると、アルゼンチンはさらに焦りの色を濃くしていく。スコアが開き追いつくのが困難になっていくと、勝負では負けているが技術では自分たちの方が上と言わんばかりに、待ち構える日本の守備網と敢えて勝負をするように、無謀なドリブル突破を繰り返していった。

 日本は中盤からの二重、三重の守備でアルゼンチンの突破を許さない。終盤に入っても“勝てる”という意識に支えられた日本の選手たちの足は止まることなく、アルゼンチンの攻撃をシャットアウト。アルゼンチンの遠征による疲れなどを考慮しても、3-0というスコアは十分に称賛に値する勝利と言える。

 そしてこの強豪国からの勝利は日本にふたつの発見をもたらした。

 ひとつ目はタフな戦いを制した日本人選手たちのなかで光彩を放った田中碧だ。相手のチャージにも負けないフィジカルの強さを武器に、中盤でのボール奪取から攻撃の起点となる短長のパスを前線に供給。チームにリズムをもたらした。このゲームでの好プレーで、田中の存在は急速に大きくなったように思う。田中が見せたプレーは、十分にレギュラーを確定させる理由に値するものであり、大きな収穫となった。

 そしてもうひとつはチームの方向性に道筋が見えたことだ。今回は強豪国が相手ということで日本の選手の誰もが高い守備意識を持って臨んだことだろう。

 しかし、本大会では日本は開催国ということで、ボール支配率を高め攻勢に出るサッカーを望む雰囲気が作られるかもしれない。だが、相手がどんなレベルの国であっても、中盤や後方のポジションには第2戦で活躍した田中や板倉、瀬戸歩夢のような激しく戦える選手を多く起用し、カウンターからチャンスをモノにするスタイルがベストに思える。

 守るサッカーは決して消極を意味するものではない。実際、アルゼンチンのドリブル突破に対して、人海戦術の網を張ってボールを奪い、素早く反撃に転じた日本のサッカーには迫力があった。常に守備への意識を強く持ち、そこからリズムを作る。派手なボールテクニックやボール支配率を高めるプレーに価値を見出すよりも、タフな精神とプレーで試合を制する。これがメダル獲得のために日本が進むべきスタイルだ。

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[文・カメラ:徳原隆元]

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